私は一年前、薄毛に悩んでいた。悩んでいたというよりも、ある日それは突然にやってきた。普段は、薄毛など気にしないくらい髪の毛がフサフサ…だと思っていた。
それが、ある日、母上に告げられたのだ。「アンタ、頭のてっぺん禿げてるよ」青天の霹靂 (へきれき) とは、まさにこの日の為に用意されていたと感じた。
自分が薄毛などとは、平成から令和へ変わるはずの年号が実は「薄毛」元年でしたというくらいの出来事だ。もう手に変な汗が出てきて落ち着かない。「神様、わたくし何か悪いことをしたでしょうか」と、普段は信仰心などいう言葉とは無縁の私が一番、神の存在を信じた時だ。
とりあえず現実に戻り、出来うる限りの対策をしようと決心したのだ。育毛剤は最終手段にとっておくとして、まずは原因の究明に力を注いだ。自分の薄毛は、昔、猿から人間への進化の図を示したダーウィンの進化論のようなゆっくりとした進行ではない事が判明している。
それは、恐竜絶滅の原因となった隕石衝突のように突然にやって来たのだ。排水口、ブラシ、枕をチェックすると原因の意図口となる物質を発見した。それは大量の「抜け毛」だ。
なぜ普段の生活で、これだけの抜け毛が出ていながら気づかなかったのだろう。そのおびただしい抜け毛は、頭の頭頂部付近、分け目のあたりが主な発生源だ。
鏡を使っただけでは発見困難な場所がゆえに、認知が遅れてしまった。幸いなことに、我が生みの親である母様に発見頂いたことで、なんとか手遅れ一歩手前で対策を打てる状況だ。
「育毛シャンプー」という、一般に市販されているモノとは成分も金額もケタ違いなものを入手し、使うことにした。恥ずかしながら、この歳になるまで、シャンプーにこのような上位互換製品があることを、まったく知らなかった。
使ってみないと分からない事だが、これは「米」と「もち米」くらい違う。「ウリ」と「メロン」だろうか。いやいや、「蟹かま」と「ズワイ蟹」くらい違う。
とにかく髪の毛に対しての、親和性、優しさ、いたわりがMAX盛り込まれていたのだ。使い始めてすぐに抜け毛が減り、2~3ヶ月たった頃には、頭頂部の露わになったみすぼらしい状態の地肌も和らいだ。
半年経つ頃には、もう薄毛野郎とは言わせないくらいに回復。一年経った現在は、本屋で立ち読みをしていても、女の人が隣に来て立ち読みをしてくれるくらいに回復している。
変わった事は、やはり女性の私を見る目が変わったのが大きい。別にモテるとか、そのようなことではなく、「嫌がられない」と言うのだろうか、顔も人より良いとは言えず、脂ぎった肌に頭頂部が薄毛である私に、快く接近してくる女性などいない。
今さらながら、電車に乗っても、本屋で立ち読みをしていても隣に寄って来るのは男性ばかりであった事に気づいた。髪の毛が復活してからというもの、女性に避けられることが無くなったのだ。
この事に気づいた私は、脂ぎった肌もお手入れし、服装もカジュアルにして出かけるようになった。そうすると、何と若い女性の方から接近してくるのだ。「男女逆だったら痴漢だろう、コノヤロウ」というくらいの接触が頻繁にあるのだ。
現在はハゲを克服して、初めて気づけた世界の違いに驚愕の毎日である。薄毛対策をきっかけに、このような世界を体験できたことには満足している次第だ。