営業をしている40歳男性です。30代後半から、ぐっと髪が薄くなりました。悩んで色々試しましたが、実は薄毛のおかげで仕事がうまくいったことがあります。
相手は取引先の中でも性格の悪さで有名な係長でした。私より5歳年上でしたが見た目に気を遣っていて、いつも高そうなスーツをオシャレに着こなしていました。
仕事に関しては非常に細かく、何かと難癖付けては支払いを値切ったり納期を短縮したりするので嫌われていました。同僚は誰もがその係長の担当になるのを嫌がっていたのですが、ある日どうしても私が交渉に行かなければならなくなり、重たい気持ちで向かいました。
案の定、無茶な要求を突き付けられ、断ると取引停止まで持ち出してきて威圧されました。そんな時です。私は鞄から資料を出そうとして、うっかり別のパンフレットを出してしまいました。
それは、取引先に行く前に寄った店でもらった増毛のパンフレットでした。薄毛に悩んでいた私は手当たり次第に育毛剤や発毛剤を試しており、増毛にも興味津々だったのです。
慌ててパンフレットを鞄にしまおうとした時、係長が言いました。「それ、見せてくれる?」私は驚きました。係長は髪の毛がふさふさで、とても薄毛の悩みがあるとは思えません。
からかわれているのかとすら思いました。しかし係長は真剣でした。私からパンフレットを受け取ると、じっくり読み進めました。そして読み終わると私の頭を見つめ、言いました。
「薬は、使ってる?」私は使ったことのある薬の名前を言いました。すると、係長はそのすべてに対して感想を言い始めました。あれは良かったとか、あっちはスース―するだけで効果が無いとか。
使ったことのあるものにしか分からない内容でした。私はおそるおそる聞いてみました。「薄毛に悩んでいるのですか?」と。係長は私の目を見つめた後、そっと下を向きました。
一見ふさふさに見えたのですが、頭頂部は薄くなっており、黒いスプレーで地肌を染めて隠していました。パウダータイプのものも合わせて使っている様でした。
私は、一つうなずくと下を向きました。私も同じスプレーを使っていたからです。二人の間に連帯感がうまれました。微かな友情すら芽生えました。結果、取引は大成功に終わりました。
係長が無茶な要求を取り下げ、しっかりとこちらの話を聞いてくれたからです。あれから二人で何度も飲みに行っています。話題はほとんど、新しい薄毛対策グッズの話です。